Vol.102-2

平成19年10月号
 

『やり直しの仕事は、進化のチャンス。』

骨折をしてから1ヶ月ほど経ち、いよいよ練習を開始するとき、ある計画を胸に抱いていました。休養で少しなまっているとはいえ、身体ができあがっているシーズン中にじっくりと打撃練習ができる時間など、これまでありませんでした。<中略>骨折する前の状態に「戻そう」とするリハビリや練習では、息苦しく感じてしまうかも知れません。しかし、「さらに進化しよう」と思えば、つらい道のりも少しは楽しく感じられます。今回のフォーム改造は、モチベーションを保つ意味でも、非常に大きな役割を果たしてくれました。

( 『不動心』 松井秀喜 著 新潮社 P.38より引用 )

やり直しの仕事ほど、やりがいを見出しにくいことはありません。
たとえば、8割方完成していた原稿のファイルを保存し忘れていて、突然の落雷でPCがダウン。保存していなかった自分の不注意とはいえ、3時間あまりの労力が泡となる瞬間の無力感。まさに茫然自失。再びPCを起動させて、3時間前にさかのぼって記憶をたどりながら入力しなおす。そんな体験は、あなたにもあるのではないでしょうか?

ヤンキースの松井選手は、そのあたりの心の切り替え方がすばらしく、ビジネスパーソンにも参考になります。上記の引用は2006年5月11日のレッドソックスとの試合で、スライディング・キャッチを試みて左手首を骨折した頃の話です。わたしのような一般人は、無責任にも「きっとすぐに快復して、今まで通りの活躍ができるようになるに違いない」なんて思っていましたが、本人にしてみれば今後の人生を左右しかねない大事故です。実力至上主義のメジャーリーグでは、結果が出せなければあっという間に戦力外通告。
さすがのわたしも、この本を読み進めて状況を知るほどに、また、彼の立場に感情移入してイメージするほどに、「心を健康的・前向きに維持することがどれほど大変なことか」と、彼の精神力の強さに心を揺さぶられました。

失敗によって、自分が到達していた状態に再び戻るために大変な努力をしなければならなくなったとき。マイナスからゼロに戻るだけでは、やりがいも達成感も味わいにくい。彼は「やり直しの仕事は進化のチャンス」と決めていたので、「骨折前の体力・技術に戻す」ことにとどまらず、フォーム改造を目指しました。そこを目指すことで、やりがいを見出し、骨折の事故を人生の中で「プラスのターニングポイント」にできると考えたのでしょう。
わたしは5年前から公開型セミナーを開始し、毎回ビデオ収録して販売してきましたが、5年前の映像をさらし続けるのが恥ずかしくなり、順次販売を終了していっています。しかし一方で、DVD化を求める声もあり、現在そのリニューアル化をどう進めるかを考えています。今だからこそできる仕上がりとは何か?進化のチャンスを探ろうと思っています。