Vol.108-2

平成20年4月号
 

『自分の気持ちを伝える勇気。』

その後も子どもたちの態度は変わりませんでした。悩んだ先生は放課後、帰ろうとしている子どもたちに思わず、「みんな、帰る前に少し先生の話を聞いてくれる?先生からお願いがあるの」と話しました。いつもは話をきかない子どもたちが先生の態度が違うのに驚いて、先生を見つめています。先生はさらに、「先生はみんながとてもすばらしい子どもたちだと信じています。それなのに放課後、いつも用務員のおじさんに、先生のクラスの生徒はひどいですねと嫌味を言われて、いじめられるのがとても悲しい。お願だから掃除をしてほしい」と頭を下げて、何度も子どもたちにお願いしました。そのとき、いつも真っ先に掃除をさぼる男の子が立ち上がって、「用務員のおじさん、むかつくな。みんなで掃除しよう」と叫びました。他の子も口々に掃除をしようと言いました。<中略先生が自分の立場を守るために自己主張しても、子どもたちの態度は変わりませんでした。先生が子どもたちを信じて自分の心を開いたところ、子どもたちの態度が変わりました。先生が最後に子どもたちにとった行動が自己開示です。自己開示は簡単に説明すると、ある人が他の人に対して、自分の気持ちや考えを話して明かすことです。

(『人生が変わる感謝のメッセージ』 中山和義 著 大和書房 P.28より引用)

自分の気持ちや考え方を伝えたとき、それに共感してくれる人もいます。でも、相手によってはそこを否定したり攻撃する人もいるかも知れません。笑い飛ばされるかも知れません。そこで傷つくのは自分です。だから、わたしたちはなかなか自分の気持ちは考えを人に明かすことはありません。自分の気持ちを伝えるのは、勇気がいることなのです。
場合によっては、好きな子に告白するのと同じくらい、勇気がいることかも知れません。

そのことを、最近、5歳の娘と話していて気づきました。彼女は「保育園に行きたくない」とよく口にする時期がありました。理由を聞くと、「友達が、よく怒るから」とのこと。
従来のわたしの行動パターンでは、「自分が悪くないなら、お友達に怒らないでよと言い返しなさい」と言うところ。でも、その日はちょっと立ち止まってみました。
「娘は、勇気を出して自分の気持ちを伝えたのに、パパには共感してもらえていない、と感じているのかも・・・」
そこでわたしは娘が保育園の支度を終えたころ、自分が幼児のころを思い出して、娘の目を見て話しました。「あのね、パパも小さかったとき、お友達に嫌なことを言われたり、辛いこともあったんだ。でも、それが嫌だって友達に言ってみたら、友達もちゃんとわかってくれたんだ。だから、今は嫌かもしれないけど、あまり心配いらないと思うよ」
すると娘は、それまで頑なに嫌がっていた表情からスッと力が抜けたようになり、「そっか」と言って園庭に足早にかけていきました。気持ちをくみとって欲しい人、共感してほしい人に説得はいらない。気持ちを伝えることがいかに大切かを娘に気づかされた瞬間でした。